研究概要

バイオマテリアルの化学

生物材料(バイオマテリアル)は,「生物が産出する有機材料」の総称であり,生産生物がそれ自身の為に何らかの目的で生産する物質のことです。生物材料の構造と生合成,およびその生産目的(言い換えれば、機能性)の解明は,天然の叡智を利用した新材料開発の重要なヒントとなります。私たちはバイオマテリアルの有効利用を念頭に,バイオマテリアルの「構造と生合成の解明」「新規機能の発現」をメインテーマとして,主に合成化学と分析化学の手法を用いながら,基礎から応用まで幅広い研究を展開しています。


木質材料(リグノセルロース系バイオマス)の化学成分

多様なバイオマテリアルの中でも私たちが特に興味を持っているのは木材をはじめとする木質材料(リグノセルロース系バイオマス)です。木質材料の実体は植物の細胞二次壁そのものですので、その主要成分である「セルロース / ヘミセルロース / リグニン / 抽出成分」が私たちの主な研究対象となっています。


高機能性多糖誘導体(セルロース・ヘミセルロース・キチンなど)の合成

セルロースは木材中で約50%含まれる重要な成分です。私たちはセルロースの材料としての付加価値を高めるために様々なセルロース誘導体の合成と機能性の評価を行っています。一例として,セルロースに光電変換機能を導入した「セルロース系有機薄膜太陽電池の開発」を行っています。一方,同じく木材主要成分であるヘミセルロース,節足動物(カニ,エビ,昆虫等)の甲殻の主成分であるキチン・キトサンなど様々な多糖の誘導体合成研究も行っています。


リグニンの化学構造、生合成、分解反応

リグニンは木材中では約25%含まれる芳香族系高分子で,植物が陸上で様々な環境ストレスに耐えながら生活する上で必須の物質です。しかし,その化学構造と生合成機構は非常に複雑でまだ完全には明らかではありません。 そこで,私たちは「多次元NMRや化学分解法によるリグニンの構造解析」や「化学プローブを活用したリグニン生合成機構の解明」などを行っています。 一方,植物バイオマスからパルプやバイオエタノールを生産する際には,多大なエネルギーとコストをかけてリグニンを除去する必要があります。私たちは,きのこなど腐朽菌のリグニン分解反応(酵素メディエターシステム)を電気化学反応に適用した「リグニンのバイオミメティックな電気化学分解法の開発」にも取り組んでいます。


ナノセルロース・ナノキチンの機能材料化

多糖ポリマー複合化の知見を適宜活かして,適切な加工(プロセッシング)を施しながら,生医学材料への変換を念頭にシンプルなアイデアを創出してきました。複合化の手法はできるだけ簡便にし,プロセッシングにも意味を持たせられるよう心掛けています。これまでに,

「セルロースナノファイバーを高密度架橋点とした高伸縮・温度応答ハイドロゲル」[Polymer 2016]

「キチンナノクリスタルのインクジェット加工によるマイクロパターニング細胞足場材創製」[Biomacromolecules 2017]

「セルロースナノファイバーのマイクロ流体ペーパー分析診断デバイス(µPAD)モジュールとしての活用」[ACS Appl. Bio Mater. 2018]

などを報告しています。


バイオマス複合系(混練型WPCや木材そのもの)の新しい評価法の提案

木質バイオマスの酵素糖化 [Biotechnol. Bioeng. 2008; Biores. Technol. 2008] やポリマーブレンド解析 [Carbohydr. Polym. 2010, 2014] の経験を基に,複合系の成分存在様式の解明を図っています。「混練型ウッドプラスチック(WPC)中のセルロース系フィラーと相容化剤の結合の分光学的検出」[Polymer 2017] に初めて成功し,「木材中のリグニンの緩和挙動と,多糖成分との共存スケールの評価 [Polymer 2019]」と「単離リグニンの相溶ブレンド化とAFMによる一分子観察」で成果を得つつあります。


セルロース誘導体の高次構造設計と機能材料化

このテーマには長く取り組んでいます [Molecules 2015]。近年では,誘導体のローカルなセグメントの配向挙動を分子構造だけでなく加工法により動的に制御するコンセプトを確立し,光学的 [Cellulose 2011; Macromolecules 2013]・電気的 [Cellulose 2016] 機能を発現させることに成功しました。最近は,「圧力履歴を記憶して円偏光で応答するセルロース液晶メカノクロミック複合材料」[J. Mater. Chem. C. 2018] に取り組んでいます。さらに直近では、セルロース系分子性コレステリック液晶の微粒子化 [Biomacromolecules 2018] にも初めて成功しています。